年間91万件の消費相談——市販薬・サプリの被害実態と、もしものときの対処法
2024年度の消費生活相談は91万件、健康食品への相談は前年比34.6%増。定期購入トラブル・健康被害・ステマ誘導の3大パターンと、実際に被害に遭ったときの5つの対処法を解説します。
年間91万件の消費相談——市販薬・サプリの被害はなぜ減らないのか

「なんとなく体によさそう」「お試し価格だから気軽に」——そう思って購入したサプリや健康食品が、思わぬトラブルの入口になっていることがある。
国民生活センターが2025年に発表したデータによれば、2024年度の消費生活相談件数は91万件で、前年度比約2万件増加した。なかでも「健康食品」への相談件数は前年度比34.6%増と突出した伸びを見せている。
これは決して他人事ではない。なぜこれほど被害が後を絶たないのか。どんな手口が多く、実際に被害に遭ったときはどこに相談すればよいのか——本記事ではデータと実例をもとに解説する。
どんな被害が多いのか——被害の3大パターン
パターン1:「お試し価格」が定期購入の入口になっている

2024年度の相談で最も件数が多かったのが、定期購入をめぐるトラブルだ。
典型的な被害の流れはこうだ。
SNSに「初回500円」「お試し1袋」と表示されている広告が流れてくる。申し込みページには最終確認画面があるが、「定期購入の初回」である旨は画面の下部にある小さな文字で書かれている。届いた商品を飲んだが効果を感じられず解約しようとすると、「最低3ヶ月の継続が条件」「解約には1万円の違約金」と言われる。
<div class="callout-warn"> <div class="callout-title">国民生活センターの注意</div>「申し込みの広告では定期購入と気づかなかった」という相談が毎年膨大に寄せられています。申込み前に最終確認画面に「定期購入」という文字があるかを必ず確認してください。
</div>2024年には経済産業省の相談窓口にも「定期購入の解約ができない」という相談がインターネット通販部門で最多を記録している。健康食品と化粧品の定期購入契約が相談の大半を占めており、高齢者(60代以上)からの相談が全体の約6割に上るという深刻な実態がある。
パターン2:健康被害——下痢・皮膚障害・鉄過剰症
金銭的なトラブルだけではない。身体に直接影響を与える健康被害も相次いでいる。
国民生活センターが報告している健康食品による危害の内訳を見ると、**消化器障害(下痢・腹痛・吐き気)と皮膚障害(かぶれ・じんましん)**が件数の上位を占める。
2024年12月には、海外事業者から購入した鉄サプリメントの長期使用により鉄過剰症を発症した事例が国民生活センターから注意喚起されている。鉄分は不足すると貧血を起こすが、過剰摂取が続くと臓器に蓄積して重篤な障害を引き起こすことがある。「自然由来だから安全」「食品だから飲みすぎても大丈夫」という認識が被害を拡大させている。
2024年に社会問題となった小林製薬の紅麹サプリメント問題は、その象徴的な事例だ。腎疾患など深刻な健康被害が多数報告され、死亡例も確認された。消費者庁の調査では当該成分の誇大な効能表示が薬機法および景品表示法の問題として取り上げられ、行政措置命令が出された。
<div class="callout-danger"> <div class="callout-title">「食品だから安全」は誤解</div>機能性表示食品を含む健康食品は、国が安全性を個別に審査した食品ではありません。製品によっては、処方薬に使われる成分と同等量の有効成分が含まれている場合もあります。服用中の医薬品がある人は、必ず医師・薬剤師に確認してください。
</div>パターン3:ステルスマーケティングによる誘導

2023年10月から景品表示法の規制対象に加わったステルスマーケティング(ステマ)だが、被害は依然として続いている。
2024年11月、大正製薬株式会社が消費者庁からステルスマーケティングによる景品表示法違反で措置命令を受けた。インフルエンサーに報酬を払って自社製品の宣伝投稿をさせ、その投稿を自社サイトに「#PR」表記なしで転載していた行為が違法と認定された。健康食品を巡るステマ認定としては規制開始以降初のケースだ。
2025年3月には、ロート製薬株式会社も同様の措置命令を受けている。機能性表示食品のサプリメントで、Instagram上では「#PR」表記があったにもかかわらず、自社サイトでの転載時に表記を削除していたことが問題となった。
大手企業でもこうした違反が起きている。消費者側にとっては、SNSで「愛用しています♡」という投稿が企業から報酬を受けた広告である可能性を常に意識しておく必要がある。
2024年の法改正で何が変わったか
2024年10月、改正景品表示法が施行された。
主な変更点は直罰制度の導入だ。これまでは違反しても「措置命令→従わなければ罰則」という流れだったが、改正後は故意に不当表示を行った場合に100万円以下の罰金が措置命令を待たずに科されるようになった。

また2023年度以降、消費者庁による「No.1表示」への執行が活発化している。2023年度の措置命令44件のうち13件が「顧客満足度No.1」などの表示に関するものだった。「No.1」を名乗るためには、公正な調査機関による客観的な根拠が必要であり、「自社調べ」は基本的に根拠として認められない。
さらに過去最高額となる16億5594万円の課徴金納付命令が出たケースもあり、不当表示に対するペナルティは確実に重くなっている。
実際に被害に遭ったら——5つのステップ
金銭的被害・健康被害どちらの場合も、以下のステップで対処できる。
ステップ1:証拠を保全する
まず購入した広告・注文確認メール・利用規約・届いた商品・領収書をすべて保存する。スマートフォンなら広告ページのスクリーンショットも撮っておく。後から証明できなくなるケースが多く、これが最も重要なステップだ。
ステップ2:消費者ホットライン(188)に電話する

**「188(いやや!)」**は全国共通の消費者ホットライン番号だ。最寄りの消費生活センターにつながり、専門の相談員が無料でアドバイスをしてくれる。定期購入の解約交渉の進め方や、業者への内容証明郵便の書き方など、具体的な対処法を教えてくれる。

電話番号:188(局番なし) 受付時間:平日・土日とも8時〜20時(センターにより異なる) 相談は無料。最寄りの消費生活センターへ自動転送される。
</div>ステップ3:クレジットカードの「チャージバック」を活用する

クレジットカードで支払った場合、**カード会社に異議申し立て(チャージバック)**をすることで、支払いを取り消せる可能性がある。業者が対応しない場合でも、カード会社が代わりに調査・返金を行ってくれることがある。カード裏面の番号に連絡し「チャージバックを申請したい」と伝えよう。
ステップ4:健康被害は医療機関を受診する
身体的な異常が出た場合は、自己判断で様子を見ず医療機関を受診する。受診時には「摂取していた製品名・成分・期間」を医師に伝えると診断がスムーズになる。製品の残りがあれば持参するか写真を撮っておく。
国民生活センターへの被害情報提供も、同じ製品による被害者を守ることにつながる。
ステップ5:消費者庁に情報提供する
悪質な広告表示だと感じた場合は、消費者庁の表示対策課(公式サイトからオンライン送信可能)に情報を提供できる。一件の情報提供が行政調査のきっかけになることがある。消費者庁の調査は多くの場合、こうした情報提供から始まる。
まとめ——被害は「知識」で7割防げる

年間91万件の消費相談のうち、健康食品関連が急増している背景には「SNSで手軽に購入できる環境」と「効果を誇張した広告」が組み合わさった構造がある。
ただし、被害の多くは事前の知識があれば防げるものでもある。
- 「お試し価格」は定期購入の可能性がある
- 体験談・口コミは企業が費用を払った広告かもしれない
- 食品でも成分によっては医薬品と同等のリスクがある
- 被害に遭ったら188に電話する
この4つを頭に入れておくだけで、多くのトラブルから身を守ることができる。
市販薬やサプリを選ぶ際には、広告の印象ではなく成分・根拠・製造元を確認する習慣を持つことが、最終的な自衛策になる。
出典:国民生活センター「2024年度 全国の消費生活相談の状況」(2025年)、国民生活センター「健康食品の危害(各種相談の件数や傾向)」、消費者庁「景品表示法関連報道発表資料 2024年度」、消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法(令和6年改正)の概要」
薬局・ドラッグストアで買える「市販薬」との違い

ここで一度、サプリ・健康食品と**市販薬(OTC医薬品)**の根本的な違いを整理しておきたい。
市販薬は薬機法のもとで厚生労働省の承認を受けており、有効性・安全性が審査されている。添付文書には「効能・効果」「用量」「副作用」が明記されており、PMDAのデータベースで誰でも確認できる。
一方で健康食品・サプリメントは「食品」であり、薬機法の承認は不要だ。機能性表示食品であれば消費者庁への届出制度があるが、国が個別に安全性を審査しているわけではない。
この違いが見えにくくなっているのは、錠剤・カプセル形状の食品が医薬品に見えるからだ。消費者庁の調査によれば、機能性表示食品を「国が安全性を審査している」と誤解している消費者が、正しく理解している消費者よりも多いという実態がある。
<div class="callout-info"> <div class="callout-title">サプリを選ぶ時の判断基準</div>パッケージに以下のどれかが書いてある場合、国への届出・審査がある。
- 「機能性表示食品」:消費者庁への届出あり(国の審査なし)
- 「特定保健用食品(トクホ)」:消費者庁の許可あり
- 「栄養機能食品」:基準値内の成分のみ
これらの表示がない場合は一般食品であり、効能の表示は法律上禁止されている。「○○に効く」という表現があれば、それは薬機法・景品表示法に抵触している可能性がある。
</div>判断に迷ったら、市販薬のような成分・根拠が明確な選択肢を選ぶか、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の公式サイトで添付文書を確認する習慣をつけることをすすめる。本サイトはそのための成分・効能の比較情報を広告なしで提供している。