「個人の感想です」の但し書きで責任を逃れられない理由──景品表示法の視点から
「個人の感想です」と小さく表示しても、広告全体が消費者に与える印象次第では景品表示法違反となります。消費者庁の見解と実際の措置命令事例から、その理由を解説します。
はじめに──「小さな但し書き」は免罪符になるのか
健康食品やサプリメントの広告で、体験談の横に「※個人の感想です」「※効果には個人差があります」といった但し書きを目にしたことがあるのではないでしょうか。
こうした表示を見て、「この注釈があれば、どんな体験談を載せても問題ないのだろう」と思われがちです。実際、広告を出す側も「但し書きを入れたから大丈夫」と考えているケースが少なくありません。
しかし結論から言えば、「個人の感想です」の但し書きは、景品表示法違反の免罪符にはなりません。消費者庁はこの点について明確な見解を示しており、実際に但し書きがあっても措置命令が出された事例は数多く存在します。
本コラムでは、なぜ但し書きでは責任を逃れられないのか、その法的根拠と実例を解説します。
景品表示法における「優良誤認表示」とは
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)第5条第1号は、優良誤認表示を禁止しています。
商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示
つまり、消費者が広告を見て「この商品は実際よりも優れている」と誤解するような表示は違法となります。
ここで重要なのは、法律が問題にしているのは**「広告全体が消費者に与える印象」**であるという点です。一部に但し書きがあっても、広告全体として消費者に誤った印象を与えれば、それは違反となりえます。
消費者庁の明確な見解
消費者庁は、健康食品の広告における体験談の取り扱いについて、以下のような見解を示しています。
「打消し表示に関する実態調査報告書」の指摘
消費者庁が2017年に公表した「打消し表示に関する実態調査報告書」では、以下のように明記されています。
体験談を用いた広告において、「個人の感想です」「効果を保証するものではありません」といった打消し表示があったとしても、体験談の内容から、大多数の消費者が同様の効果を得られると認識する場合には、景品表示法上問題となるおそれがある。
つまり、但し書きの存在よりも、体験談を含む広告全体が消費者にどのような印象を与えるかが判断基準となります。
<div class="callout-warn"> <div class="callout-title">重要なポイント</div>「個人の感想です」という但し書きは、あくまで広告の一部に過ぎません。消費者庁は広告全体を見て判断するため、目立つ体験談と小さな但し書きがセットになっている場合、但し書きは「消費者の誤認を解消するものではない」と判断される可能性が高いのです。
</div>「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」
消費者庁が公表している「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」においても、以下の記載があります。
痩身効果等の体験談を表示する場合、打消し表示として「個人の感想であり、効果・効能を示すものではありません」等と記載していたとしても、体験談を見た一般消費者は、その体験談と同じような効果・効能が得られるという認識を抱くと考えられる。したがって、このような体験談を用いた表示は、不当表示となるおそれがある。
この見解からも、但し書きの有無に関係なく、体験談自体が消費者に誤認を生じさせる可能性があれば問題になることが分かります。
但し書きがあっても措置命令が出された事例
消費者庁は、実際に「個人の感想です」等の但し書きがあった広告に対しても、措置命令を出しています。
事例1:ダイエットサプリメントの広告
ある健康食品販売事業者は、ダイエットサプリメントの広告において「2週間で−5kg」「飲むだけで痩せた」といった体験談を掲載し、その近くに小さく「※個人の感想です」と記載していました。
しかし消費者庁は、広告全体を見たときに一般消費者が「この商品を摂取すれば、誰でも容易に痩身効果が得られる」と認識するおそれがあると判断。但し書きがあっても優良誤認表示に該当するとして、措置命令を出しました。
事例2:美容クリームの広告
別の事例では、美容クリームの広告に「シミが消えた」「10歳若返った」といった体験談が写真付きで大きく掲載され、ページ下部に「※効果には個人差があります」と小さく記載されていました。
この事例でも、消費者庁は但し書きの存在にかかわらず、広告全体が消費者に対して実際よりも著しく優良な効果を印象づけていると判断し、措置命令の対象としました。
<div class="callout-tip"> <div class="callout-title">措置命令とは</div>消費者庁が景品表示法違反を認定した場合、事業者に対して違反行為の差止めや、一般消費者への周知、再発防止策の実施などを命じます。これが「措置命令」です。重大な違反の場合は「課徴金納付命令」(売上の3%相当額)が加わることもあります。
</div>なぜ但し書きでは免責されないのか──法的な理由
但し書きが免罪符にならない理由は、景品表示法の構造そのものにあります。
理由1:「一般消費者の認識」が基準
景品表示法は、**「一般消費者が広告を見たときにどう認識するか」**を判断基準としています。
専門家が注意深く読めば気づくような但し書きではなく、普通の消費者が広告を見たときに受ける印象が問題になります。大きな文字で「−10kg達成!」と書かれ、隅に小さく「※個人の感想です」とあっても、多くの消費者は体験談の方に目が行き、但し書きを見落とすか、見ても十分に認識できないことが多いのです。
理由2:打消し表示の「認識率」の問題
消費者庁の調査によると、広告中の打消し表示(但し書き)について、消費者がどの程度認識しているかを調べた結果、多くの消費者が打消し表示を十分に認識できていないことが明らかになっています。
特に以下のような場合、打消し表示は効果を発揮しにくいとされています。
- 文字が小さい
- 強調表示と離れた位置にある
- 背景色と文字色のコントラストが弱い
- 動画広告で表示時間が短い
- 情報量が多く埋もれている
理由3:そもそも「打消し」で打ち消せない表示がある
最も重要な点として、どれだけ目立つ打消し表示をしても、打ち消せない誇大表示があるということです。
例えば、合理的根拠がない効能効果(「飲むだけで10kg痩せる」「塗るだけでシミが消える」など)については、いくら「個人の感想です」と付記しても、その表示自体が問題となります。根拠のない効果をあたかも多くの人が得られるかのように示すこと自体が違法であり、但し書きでその違法性は解消されません。
消費者として注意すべきこと
以上を踏まえ、消費者として広告を見る際には以下の点に注意してください。
1. 「個人の感想です」は信頼性の指標にならない
但し書きがあるからといって、その広告が適法とは限りません。むしろ、但し書きをわざわざ入れているということは、体験談の内容が誇大である可能性を事業者自身が認識している証拠とも言えます。
2. 体験談は「たまたまそうなった一例」に過ぎない
広告に掲載される体験談は、事業者が選んだ「良い結果が出た例」だけです。効果がなかった人、満足しなかった人の声は掲載されません。体験談を見て「自分も同じ結果が得られる」と期待することには根拠がありません。
3. 科学的根拠の有無を確認する
健康食品やサプリメントについては、その効果を裏付ける科学的根拠があるかどうかを確認しましょう。消費者庁が認定した「機能性表示食品」や「特定保健用食品(トクホ)」であれば、一定の科学的根拠に基づいた表示が行われています。
<div class="callout-warn"> <div class="callout-title">困ったときは188へ</div>健康食品やサプリメントの広告を見て購入したが効果がなかった、定期購入の解約ができない、といったトラブルに遭った場合は、**消費者ホットライン「188」(いやや)**に電話してください。最寄りの消費生活センターにつながり、専門の相談員がアドバイスしてくれます。
</div>まとめ
「個人の感想です」「効果には個人差があります」といった但し書きは、景品表示法違反の免罪符にはなりません。
法律が問題にしているのは、広告全体を見た一般消費者がどのような印象を受けるかです。小さな但し書きよりも、大きく目立つ体験談の方が消費者の認識に強く影響を与えるため、但し書きがあっても優良誤認表示として違法と判断されることは珍しくありません。
消費者庁は、このような広告に対して継続的に監視を行い、措置命令・課徴金納付命令を出しています。消費者としては、派手な体験談に惑わされず、科学的根拠のある情報を基に商品を選ぶことが大切です。
なお、本コラムは消費者の自衛のための情報提供を目的としており、個別の法律相談・医療相談の代替となるものではありません。具体的な被害やトラブルについては、消費生活センターや弁護士等の専門家にご相談ください。
出典
- 消費者庁「打消し表示に関する実態調査報告書」(2017年7月)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/ - 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/ - 景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)第5条第1号
- 消費者庁「措置命令一覧」
https://www.caa.go.jp/notice/entry/ - 国民生活センター「健康食品の広告に関する相談事例」
https://www.kokusen.go.jp/