妊娠中・授乳中に使える市販薬・使えない市販薬の見分け方|安全な選択のために知っておきたいこと
妊娠中や授乳中の市販薬選びは慎重さが求められます。添付文書の読み方から、避けるべき成分、相談先まで、安全に市販薬を選ぶためのポイントを薬剤師が解説します。
はじめに:妊娠中・授乳中の市販薬選びが難しい理由
妊娠中や授乳中は、体調を崩しても「薬を飲んでいいのかな?」と不安になる方が多いものです。市販薬(OTC医薬品)は手軽に購入できる反面、妊娠中・授乳中の使用については自己判断が難しい場面があります。
胎児や乳児への影響を考えると、すべての薬を避けたくなる気持ちは自然なことです。しかし、症状を我慢しすぎることで母体の健康状態が悪化し、結果的に赤ちゃんに悪影響を及ぼすこともあります。
💡 大切な考え方
「薬を使わないこと」が必ずしも最善ではありません。必要なときに適切な薬を選ぶことが、母子ともに健康を守る第一歩です。
この記事では、妊娠中・授乳中に市販薬を選ぶ際の基本的な考え方と、具体的な見分け方のポイントを解説します。ただし、最終的な判断は必ず医師・薬剤師に相談することが重要であり、この記事は医療行為や診断の代替となるものではありません。
添付文書の読み方:まず確認すべき3つの項目
市販薬のパッケージや添付文書には、妊娠中・授乳中の方に関する重要な情報が記載されています。購入前に必ず確認すべき項目を見ていきましょう。
確認項目1:「してはいけないこと」欄
添付文書の冒頭にある「してはいけないこと」欄は、最も重要な警告が書かれている部分です。「妊婦または妊娠していると思われる人」「授乳中の人」という記載がある場合は、その薬の使用を避ける必要があります。
確認項目2:「相談すること」欄
「相談すること」欄に妊娠・授乳に関する記載がある場合は、使用が一律に禁止されているわけではありません。ただし、自己判断での使用は避け、医師や薬剤師に相談してから使用を検討しましょう。
確認項目3:「成分」欄
後述する「避けるべき成分」に該当するものが含まれていないかを確認することも大切です。
| 記載場所 | 記載内容の例 | 対応 |
|---|---|---|
| してはいけないこと | 妊婦または妊娠していると思われる人は使用しないこと | 使用を避ける |
| 相談すること | 妊婦または妊娠していると思われる人は医師に相談すること | 医師・薬剤師に相談後に判断 |
| 記載なし | 特に妊娠・授乳に関する記載がない | 念のため薬剤師に確認を推奨 |
妊娠中に注意が必要な代表的な成分
市販薬に含まれる成分の中には、妊娠中の使用に特に注意が必要なものがあります。以下に代表的な成分と注意点をまとめました。
解熱鎮痛成分
| 成分名 | 注意点 | 妊娠後期の使用 |
|---|---|---|
| イブプロフェン | 妊娠後期は禁忌 | 使用不可 |
| ロキソプロフェン | 妊娠後期は禁忌 | 使用不可 |
| アスピリン(アセチルサリチル酸) | 妊娠後期は禁忌 | 使用不可 |
| アセトアミノフェン | 比較的安全とされる | 医師の指示のもと使用可能 |
⚠️ 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)について
イブプロフェンやロキソプロフェンなどのNSAIDsは、妊娠後期(28週以降)に使用すると胎児の動脈管早期閉鎖を引き起こす可能性があります。妊娠初期・中期でも、長期使用は避けることが推奨されています。
風邪薬・総合感冒薬に含まれる成分
総合感冒薬には複数の成分が配合されているため、個別の成分を確認する必要があります。
- コデイン類(ジヒドロコデインなど):咳止め成分として配合されていることが多いですが、妊娠中・授乳中ともに注意が必要です
- カフェイン:少量であれば問題ないとされますが、過剰摂取は避けましょう
- dl-メチルエフェドリン:血管収縮作用があり、大量摂取は避けることが望ましいとされています
胃腸薬に含まれる成分
- ビスマス製剤:長期連用で胎児への蓄積が懸念されます
- センノシド・ビサコジル:刺激性下剤は子宮収縮を誘発する可能性があり、使用には注意が必要です
授乳中に注意が必要な成分
授乳中は、薬の成分が母乳を通じて赤ちゃんに移行する可能性があります。ただし、多くの薬は母乳への移行量がごくわずかであり、「授乳中だからすべての薬がダメ」というわけではありません。
授乳中の使用を避けるべき成分
| 成分名 | 含まれる薬の種類 | 理由 |
|---|---|---|
| コデイン類 | 咳止め・総合感冒薬 | 乳児の呼吸抑制の報告あり |
| ジフェンヒドラミン | 睡眠改善薬・鎮静成分 | 乳児への移行・影響の懸念 |
| ロートエキス | 胃腸薬 | 乳汁分泌抑制の可能性 |
🚨 コデイン類の授乳中使用について
2017年、厚生労働省はコデイン類の授乳中使用について注意喚起を行いました。母親の代謝能力によっては、乳児に呼吸抑制などの重篤な副作用が生じる可能性があります。
授乳中でも使用できる可能性がある成分
- アセトアミノフェン:母乳への移行量が少なく、比較的安全とされています
- 酸化マグネシウム:腸内で作用し、吸収されにくい成分です
- トローチ・のど飴タイプの薬:局所作用が中心で、全身への吸収が少ないものが多いです
ただし、「比較的安全」であっても、使用量や期間によっては影響が出る可能性があります。必ず用法・用量を守りましょう。
具体的な症状別:選び方の目安
頭痛・発熱の場合
妊娠中・授乳中ともに、アセトアミノフェン単剤(他の成分が入っていないもの)が第一選択となることが多いです。イブプロフェンやロキソプロフェンは避けましょう。
風邪症状の場合
総合感冒薬は複数の成分が配合されているため、判断が難しくなります。可能であれば、症状に合わせた単剤(解熱剤のみ、など)を選ぶ方が安全性を確認しやすくなります。
便秘の場合
酸化マグネシウムなどの塩類下剤は比較的安全とされています。センナ、ダイオウ、ビサコジルなどの刺激性下剤は、子宮収縮を促す可能性があるため妊娠中は避けることが推奨されています。
胃痛・胸やけの場合
制酸剤(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど)は比較的安全とされています。ただし、アルミニウム製剤の長期大量使用は避けましょう。H2ブロッカーについては、医師への相談が必要です。
購入時・使用時に心がけたいこと
薬剤師に相談する
市販薬を購入する際は、薬剤師に「妊娠○週です」「授乳中です」と伝えましょう。妊娠週数によって使える薬が変わることもあるため、できるだけ具体的に伝えることが大切です。
ドラッグストアの「要指導医薬品」「第1類医薬品」に注目
要指導医薬品や第1類医薬品は、薬剤師からの説明を受けなければ購入できません。妊娠中・授乳中の方は、相談しやすいこれらの医薬品カウンターを利用するのも一つの方法です。
「自然由来」「漢方」だから安全とは限らない
漢方薬やハーブ製品にも、妊娠中に避けるべきものがあります。例えば、大黄(ダイオウ)を含む漢方薬は妊娠中の使用に注意が必要です。「自然だから安全」と思い込まず、成分を確認しましょう。
💡 迷ったら「使わない」も選択肢
判断がつかない場合は、無理に市販薬を使わず、かかりつけの産婦人科や内科を受診することが最も安全です。妊娠中・授乳中の処方薬については、医師が安全性を考慮して選んでくれます。
困ったときの相談先
かかりつけ医・産婦人科
妊娠中の方は、まず産婦人科医に相談するのが最も確実です。市販薬を使いたい場合も、事前に相談できると安心です。
薬局の薬剤師
ドラッグストアや調剤薬局の薬剤師も、妊娠・授乳中の薬の相談に対応しています。処方薬を受け取る薬局では、お薬手帳を活用して情報を共有しましょう。
妊娠と薬情報センター(国立成育医療研究センター)
妊娠中・授乳中の薬について、専門的な相談ができる窓口です。電話相談も可能ですが、かかりつけ医からの紹介状が必要な場合があります。
PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)
医薬品の添付文書情報を検索できる「医薬品医療機器情報提供ホームページ」を運営しています。市販薬の添付文書も確認できます。
まとめ:安全な市販薬選びのポイント
- 添付文書の「してはいけないこと」「相談すること」欄を必ず確認する
- 避けるべき成分(NSAIDs、コデイン類など)を把握しておく
- 総合感冒薬より単剤を選ぶと判断しやすい
- 購入時は薬剤師に妊娠週数や授乳中であることを伝える
- 判断がつかない場合は医療機関を受診する
妊娠中・授乳中は、赤ちゃんのことを思うあまり、体調不良を我慢してしまいがちです。しかし、適切な薬を正しく使うことは、母子ともに健康を守ることにつながります。迷ったときは一人で判断せず、医師や薬剤師などの専門家に相談してください。
出典:
- 厚生労働省「妊婦、授乳婦等への医薬品の使用に関する情報提供について」
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品医療機器情報提供ホームページ」
- 国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」
- 厚生労働省「コデインリン酸塩等の小児等への使用制限について」(平成29年)